医療安全を守る「第一の防衛線」。なぜ「型」の挨拶だけではダメなのか?
前回のコラムでは、医療現場における接遇の本質とは、患者さんの異変を察知する「ファーストルック(臨床観察)」であり、マニュアル一辺倒の対応がかえってハラスメントの引き金になり得るというお話をしました。
マニュアルの先にある、プロの『弁える力』と組織のシステム
では、このファーストルックを個人の意識やセンスに頼るのではなく、組織の「仕組み」として定着させるには一体どうすればよいのでしょうか。
その具体的なアプローチとなるのが、今回お伝えする、スタッフ間で交わされる日常の挨拶と、プロフェッショナルとしての「弁(わきま)える力」です。
もし明日、現場のスタッフから「なぜ、私たちはここまで挨拶を徹底しなければならないのですか?」と聞かれたら、先生はどう答えますか?
「社会人のマナーだから」「患者さんに良い印象を与えるため」――。もしそうお考えだとしたら、少し「もったいない」かもしれません。
実は、スタッフ同士が交わす『おはようございます』のトーンを聞けば、貴院の「医療安全のリスク管理状況」や「現場の疲弊度」が透けて見えてくるのです。
今回は、単なるマニュアル接遇の限界を突破し、医療安全と人材育成を両立させる「仕組みと風土の創り方」に迫ります。
「型(マニュアル)」があるからこそ、応用が生きる
ゴルフはマナーを重んじるスポーツですが、厳格なルールという「型」があるからこそ、選手は一瞬の状況を判断し、最高のパフォーマンスを発揮できます。
医療現場における接遇マニュアル(型)も同様に、誰が対応しても最低限のクオリティを担保するための重要なセーフティネットです。
しかし、医療現場は一刻一刻と状況が変化する「動的な空間」です。だからこそ、マニュアルの先にある「守破離」のステップを意識しなければなりません。
まずはマニュアル通りにお辞儀をする(守)。しかし、心身に不安を抱える患者さんの前では、そのかしこまった姿勢が逆に「事務的な冷たさ」や「不必要な緊張」を与えてしまうリスクに気づけるかどうか。
相手のわずかなサイン(痛み、不安、緊張など)を察知し、「今、どのような振る舞いが最適か」を正しく判断して寄り添う。この「弁える(わきまえ)力(破・離)」があって初めて、患者さんに「ここは安心で安全な場所だ」という確信が伝わります。
挨拶は、重大な医療ミスを防ぐ「第一の防衛線」
そして、この「弁える力」は、対患者さんだけのものではありません。
タスクシフトや多職種連携がこれまで以上に求められる現代の病院経営において、スタッフ間で交わされる日常の挨拶は、医療の質を左右する重要な鍵となります。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
すれ違いざまに交わされるこの短い言葉は、決して単なる習慣ではありません。
互いの存在を認め合い、尊重し合うことで、現場に「心理的安全性」を生み出す土台となります。
役職や職種を超えて、誰にでも声をかけやすい風通しの良い環境。それこそが、報告・連絡・相談を円滑にし、重大な医療ミスを未然に防ぐ「第一の防衛線」となるのです。
経営層にとって、挨拶は「組織のエラー」を検知するセンサー
医療安全を「スタッフの意識やコミュニケーション能力」という個人の資質だけに頼るのには限界があります。
人間はミスをする生き物だからこそ、それを支える「仕組み(システム)」が必要です。
経営層やマネジメント層にとって、現場の「挨拶」は組織のシステムエラーを検知する高感度センサーでもあります。
いつも元気なスタッフの挨拶のトーンが低い、あるいは挨拶を返さないスタッフがいる。
それは単なるマナー違反ではなく、「過重労働による疲弊(バーンアウトの兆候)」や「人間関係の摩擦」という、組織の危険信号(アラート)かもしれません。
挨拶を「させる」のではなく、経営層が「現場の異常を検知するバロメーター」として観察する視点が不可欠です。
押し付けではない「なぜ」を問い、共に風土を創る
「なぜ、私たちは挨拶をするのか?」
多忙を極める現場のスタッフに対し、正論として「挨拶の意義」を一方的に押し付けてしまっては、かえって心理的負担(ハラスメント感)を与えかねません。
私がご提案する『医療接遇』では、決まったカタチを教え込むのではなく、システムとしての医療安全、そしてプロフェッショナルとしての誇りをベースに、現場のスタッフの皆さまと共に「なぜ」を考えます。
「型」を身につけた上で、状況を弁えて自ら気づき、動ける「主体性の高いチーム」を育成していくアプローチです。
状況を弁え、心を通い合わせる挨拶。
それが、ミスを隠さない「仕組み」と連動したとき、貴院の確固たる「組織風土」として根付く基盤となります。
多忙を極める医療現場のマネジメントや、医療安全、人材育成に課題を感じておられる院長先生・経営層の皆さまのお役に、本コラムが少しでも立てましたら幸甚に存じます。
【多忙な現場だからこそ、確かな「防衛線」の構築を】
「マニュアル通りの対応から抜け出せない」「多職種間のコミュニケーションに課題がある」「スタッフが疲弊しているように見える」......日々変化し、多忙を極める医療現場において、組織風土の改革は一朝一夕にはいきません。
文化(挨拶)と仕組み(システム)の両面から、貴院が抱える具体的なお悩みや、目指したいチームのあり方について、まずは一度お話ししてみませんか?
現状の課題を丁寧にヒアリングし、最適なアプローチをご提案いたします。
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