第16話:〜これからの医療は「いつも通り」にはいかない!〜

今年の雨はいつも以上に多く感じたのは私だけだろうか。
真っ青な空と、燦々と照りつける陽に向かい勢いよく咲く宗旦槿に、夏の到来を感じる。

丁度、前回このコラムを配信後(6/9)、
国は2035年を見据えた保健医療政策ビジョン提言書を発表した。

「2035年日本は健康先進国へ」

1.量の拡大から質の改善へ
2.インプット中心から患者にとっての価値中心へ
3.キュア中心からケア中心へ
インフラとして
次世代型の保健医療人材育成 『保健医療の価値を高める』としている。

タイムリーに前回、現状を振り返ることのできる人材になるには、3つの要素があると述べた。
今回はその一つ「課題発見力」について提言を行いたい。
日々どのようなトレーニングをすることで、接遇の追究、理解につながるのか。

今日、早速終業時に
「どの患者さんに上手く医療が提供できたか」とスタッフに聞いて欲しい

それに対し貴院スタッフは、即座に答えられるだろうか。患者名を挙げ、その時に交わした言葉や相手の表情なども含め医療行為を振り返ることはできるだろうか。

何人がそのように答えられるだろうか。

その割合は病医院全体の何パーセントに当たるだろうか。

時代は「御ひとり様」「オンリーワン」「特別感」が求められている。

しかし互いの関係性が構築できているのなら「いつも通り」でいい、そう思い込んでいるのではないだろうか。

なぜ、自院を選んで受診するのか。
その理由を思索して得た結論から今度は、どのような対応をすることで患者の満足する医療応対に繋がるのかを考える。

そのプロセスを経なければ、
「いつも通り」がかえって仇となるケースもある。

急性期の患者に対しては、病状の進行を気にかけ適宜適切な医療を提供しようと意識せずとも心掛けるであろうが、果たして、慢性期の患者に対しても同じような注意力をもって、医療応対を行えているだろうか。

慢性期の患者は病気の進行もそう速くなく、いつもと同じ医療を提供する方が
患者に安心してもらえる、そう決めつけていないだろうか。

慢性期の患者の病状は、決して「いつも同じ」ではない

一週間前と比べ、一日前と比べ、病状はわずかであってもなにがしか変化している。

変化する患者に対して、変わらない「いつも通り」の医療対応。

むしろ、病状の進行が遅い慢性期の患者にこそ、鋭くその変化を察し応対していくことが必要なのではないか。

そしてそのために必要なスキルこそが課題発見力なのである。

では、課題発見力を高めるためにはどうすればよいのか。

一つ関連することとして、コミュニケーション力の向上がある。言語、非言語その両方の手段で情報を発信してくる患者に対して、その所作の機微をただ感じるだけでは足りない。

朝の挨拶の際、同じ患者の挨拶でも昨日は笑顔であいさつを返してくれたのに、
今日は心なしか声が小さい。

その変化を察知するだけではなく、

「なぜ?」

「どうして?」を

必ず考える。

日ごろのコミュニケーションに気をつかっていれば、課題発見力の第一段階である、変化の察知がより容易になる。

もっとも、コミュニケーションは互いの関係性に遠慮や配慮、その時の心情が絡み合っていて一筋縄にはいかない。
もっとも身近であるはずの家族でさえ、時にコミュニケーションに苦労することがある。

その中で、家族よりも心理的距離があるであろう患者と医療者はいかに適切なコミュニケーションを行っていくのか

その際、一方通行のコミュニケーション、対応だとしたら患者の安心、ハイレベルな医療に繋がらないことは明らかである。

「なぜ」「どうして」を思索し、患者の不安や問題に歩み寄り
相手の望む結果に近づく言葉をかけ、態度をとる。

それがうまくいったとき、
患者は安心を感じ、医療者を受け入れる。

そして、それがさらに良好なコミュニケーションへとつながり患者の変化を察知しやすくなる。

課題の発見も素早くなる。

正の連鎖となる。

つまり、課題発見力はコミュニケーションの要素であるだけでなく、それら二つは循環するサイクルを形成する不可分なものということになる。

相手のわずかな変化に気づく

その変化の理由を考え、問題の本質を明らかにする。

相手の望む結果に近づくためにどのような言葉や態度で接すればよいかを考え、実践する。

言われてみれば、確かにと納得するであろう一連のコミュニケーション

課題発見力が高いのなら、より良いコミュニケーション、よりハイレベルな医療に繋がることは間違いない。

クレームが発生したときだけではなく、課題は日々、ルーチンワークの中にこそあり

日常から"これで適切な医療を安心して提供できているだろうか"と問題意識を持つことでトレーニングされていく。

完璧で充分、100%と数値化できる大正解な接遇は存在しない。

しかし、課題発見力を鍛え、「なぜ」「どうして」を考える姿勢が、プレミアム接遇へと押し上げてくれるだろう。


いかがでしたでしょうか。皆さまのお役に少しでもお役に立てましたら有難く存じます。


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