第14話:「この時期」だから、できること

風薫る五月、この表現が腑に落ちる、なんとも心地いい季節。
先週末は、神田祭の囃子が街中に響いていた。

さて、連休が明け、新入職員にも少しずつゆとりが出始めたころ
この一か月の成長は予定通りであっただろうか。

新人の、具体的に目に見える変化もあるかもしれないが、果たしてどこまで、
自院の業務の意図を理解して、それに取り組めているのか。
彼らの成長度合いに、どの程度の個人差が生じているだろうか。
指導者として、数名の新人教育を任された場合には、
新人1人1人の美点、欠点が目につき始めるころ
まずは、基本となる「あいさつや身だしなみ」
新年度スタート時の、元気な明るい声の挨拶は院内に響いているだろうか
医療者としての、清潔で気の緩みのない身だしなみは、整っているのか
新人の現状は、彼らの接遇に現れている。

そして新人の指導者は、自分の指導力に対しても、内省を始める時期である。
自院の未来を担う人材を育てる、その責務を託された者として、
予定通りに、新人を育てられているだろうか
指導した新人が、クレームを受けたりしていないだろうか
そもそも、自分の言葉はどの程度彼らに届いているのだろうか

計画通りに、新人教育が進行することは望ましいことだが、
実際の現場では、座学だけでなく、専門的な技術や知識も含め、
教えなければならないことが山済みで、気づけば、予定が遅れていることもある。

そこで、自分の指導を、3つの側面から評価してみてはどうだろうか。
1.技術的要素
2.環境的要素
3.人間関係的要素

この3つの要素は、私が医療接遇コンサルティングを依頼される際にベースとしていることだ。
どれか1つでも欠けたら、成果直結に繋がらないといっても差し支えないだろう。

まずは、これまでこのコラムの第11話〜13話で配信してきたように、
指導者自身がこの3つの要素があるかどうかが重要である。

指導者が、「今年の新人は、自院の理想とする医療者に育てよう!」と、気持ちは最高に盛り上がっている。それ自体はとても良いのだが、専門職としての知識や技術を、身に付けていなければ、いざ、現場で適切な患者対応を提供することは難しいわけであって、ましてや、自分の、身につけていないものを、新人に要求することが、酷であることは言うまでもない。
「自分の持っている以上のものを、他人に与えることはできない」のである。

そして、その適切な医療行為には、これまでの経験に基づいた判断力が要求される。
この経験は、これまで自身がどのような環境に携わり、従事してきたか、
すなわち環境的要素が必要となる。
一般的に、多くを経験した人、言い換えれば、
自分にはない物を沢山もっているであろう人からは、学ぶところも多々ある。
新人たちは、そのような経験者たちから、薫陶を受けたいと思うのではないだろうか。
そして、経験というものは、自分自身だけで形成されることは少ない。
経験をする際の、主体が自分であるとすれば、その客体(対象)は何だったであろうか。
医療の現場では、多くの場合、その客体は「人」であろう。
患者様であり、同僚であり、そして自分の指導者でもある。
これが、人間関係的要素が必要となる有縁である。

先日、あるクライアント様先での相談で下記のような内容があった。
前職も医療従事者の中途採用者が1名、前職は異なる業種の新人、そして、大学を出たばかりの社会人1年生が1名、この3名の教育を任されたチームリーダー。
三者三様の背景に、個々に併せた教育方針を立てた
後の2人の方に多く時間を割くことになる、そう彼は予想した。
しかし、一番即戦力になると思っていた、前職も医療従事者だった方の問題が大きくなっている。
なぜ、この新人が思うように育っていないと感じているのか
それは、一言でいうと、経験者だから、という期待値が高かったということだ。

新人教育では、個々の背景によって
指導者側がある種の先入観を持って、教育に当たっている場合が多く見受けられる。
もちろん、過去の経験は有益ではあるが、あくまでも貴院にとっては新人である、ということを忘れがちになる。
これは、以前の病院でもやっているだろう。医療者としては出来ていて当然。と考えて
格段その新人に、高評価をつけることはないものの、時として、新人から、
「前の病院ではこのようにやっていました」と言われたら、
「うちの病院ではそのようなやり方ではない。当院のやり方は...」と言った経験もある指導者も
いるのではないだろうか。

何を主軸に育成するのか。
「自院」という枠に新人を当てはめ、画一的な指導(あくまでこれは「ぶれない」指導とは、別物である)をするのがナンセンスであることは、当然のこととして、
一体どこまで新人の多様性、個別性を受容するべきであろうか。

慣れ始めたこの時期こそ、指導する側は、自分自身、新人その双方の視点で、見直すことが必要である。


いかがでしたでしょうか。皆さまのお役に少しでもお役に立てましたら有難く存じます。


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